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Tabata Journal

『すべては、ここからはじまった』 第1回:CETから始まった可能性 (前編)

アートとデザインの実験によって変わった街


 新しい時代のうごめきに敏感な若者たちの間で、日本橋、馬喰町、浅草橋など、東京駅よりやや東のこのエリアが「CET(セット)」と呼ばれているのをご存じだろうか?

 その名は、あるプロジェクトに由来する。「セントラルイースト東京(CET)」。

 中央区、千代田区の空きビル、空き倉庫を使って、若手アーティストたちの作品を展示するという"建築"、"デザイン"、"アート"の要素を組み合わせたイベントからスタートし、街の新たな価値の創造を目指した2003年より続くプロジェクトだ。

 CETのはじまりは、2002年。当時、都心が再開発され、大型のオフィスビルが次々に完成、オフィス物件の市場が大幅な供給過多に陥り、空室率の増加や賃貸料の低下が予想された、いわゆる「2003年問題」が問題視され、建築家やデザイナー、キュレーター、プランナーたちが各地で勉強会を開きはじめたのがきっかけだった。

 その際、ニューヨークのブックリンで、リノベーションを施した廃墟ビルを中心にアートスポットが広がっているという事例に着目、日本でも同様の動きを実現させようという試みが動き始めることになる。手始めに、都心にありながら、空きビル状態のまま廃墟と化していた外苑前のビルをアートのイベント会場として再生させたのがこのプロジェクトの大きな原点になっている。

 その後、馬喰町、浅草橋など、東京の東側にある約4000件もの問屋が集積するこのエリアで、不況の流れも受け、空き物件が増加しているという現象を聞きつけ、外苑前での事例を参考にしながら、建築、デザイン、アートを組み合わせた複合イベントを行うことが企画される。

 そして、プロジェクトのメンバーがアーティストのための展示会場を探すため、街歩きツアーを敢行したところ、旧き良き佇まいの建物にもかかわらず、手付かずに放置されてしまっている空きビルや廃屋が多いことはもちろん、問屋街ならではの玄人好みの商品を扱う商店、昔ながらに残る純喫茶など、"現代の東京のパラレルワールド"と見違う街の風景に、クリエイターたちは、思わぬ創造の刺激を受けることになった。

 そこに広がっていたのは、渋谷、青山、恵比寿に代表される、厳しい経済原理に晒されるあまり、移り変わりの激しい商業施設ばかりに覆われた東京の西のエリアとは異なる都市空間。一見すると活力を失いつつあるこのエリアも、想像力豊かな彼らにとっては、東京の西とは異なるパラダイムが可能な、無限の可能性を秘めた"新しい都市空間"のためのキャンバスのように思えたのだ。

 その気づきは、"東京の東をクリエイションの実験場にしよう"という掛け声となり、CETの前身となるアートイベント「東京デザイナーズブロック・セントラルイースト」が開催されるに至る。

 翌年2004年に開催されたイベントでは、正式名称をCETに変更。空き物件を利用した会場は大幅に拡大し、このエリアは、イベント期間中約10日間、街全体がギャラリーと化していくことに
なった。

 地域住民が綿々と紡いできた歴史ある街がそもそも秘めていた魅力。その魅力とのつながりは、都市とは何か、都市での生活とはそもそもどうあるべきかを本能的に考えていたクリエイターたちにとって、"都市の再発見"とも言える体験であったに違いない。

 クリエイターたちが発信する都市への興味は、毎年、回を重ねるごとに、着実に市民権を得るようになり、イベントに触発される形で、各地にリノベーション、コンバージョンが施された空間が次々に誕生していった。そこにはアトリエ、ギャラリー、ショップ、オフィスが誘致され、ひいては、地域の利便性やポテンシャルを世間にアピールすることにも成功していく。人離れの進んでいたこのエリアにクリエイターを中心とした若い世代が移り住む現象も巻き起こすことになっていったのだ。

 その後CETは、地域に新たに定着したカフェやショップ、オフィスが街を使い、様々な実験的なアイデアを自発的に企画、運営、プロジェクトが目指した理想が日常となったことをきっかけに、2010年に行われたラストイベント「オープンエンド」を最後に、イベントとしての活動は終止符を打つ。

 イベント、プロジェクトの名前であったCETは、今ではこのエリアを指す呼称として残り、そのスピリットは、新しい日常の中に定着している。

 クリエイターたちの"街を楽しもう"という純粋な想いからスタートし、物件をリノベーション、コンバージョンするというデザインの力も借りながら、結果的に"新しい街"を作り出してしまったこのプロ
ジェクト。

 CETが試みたアプローチには、馬喰町、浅草橋周辺に限らず、どのエリアの街にも応用可能な、街を活性化させるための重大なヒントが数多く隠されているよう思えてならない。

 

 

 

 

セントラルイースト東京
http://www.centraleasttokyo.com/




text by Takuo Shibasaki (butterflytools)



 













※ 『すべては、ここから始まった』と題したこの連載では、地域に"新しい風"を生み出した、地域活性化の役割を担うユニークなアプローチを紹介していきます。

text by Takuken Web